自宅に戻り、見上げると左近の部屋の明かりがついていた。
「・・・」
複雑な思いで部屋のドアを開けていると、左近が出てきた。
「これ、返そうと思って」
昨日パエリアを乗せていた皿。
「あ、ありがとう」
目を合わせず、皿だけ受け取る綾女。その手を左近が押さえた。
驚いて左近を見上げる綾女。
「いや・・っ」
左近の手を振りほどこうとするがしっかりとつかまれてしまっている。
蘭丸といい、左近といい、どうしてこんなに強引なのだろう。
「離して」
綾女の声はすでに涙声だ。
「あなたには彼女がいるでしょ?」
左近はにわかに反応できなかった。
「彼女?いないけど?」
涙目で左近を睨む綾女は、ただ美しかった。思わず抱きしめたくなるほどに・・・。
「手が痛いわ。離して」
左近が力を緩めると、綾女の手首にはうっすらと指の跡がついていた。
「ごめん、痛かったか」
綾女は何も言わず、皿を抱えて自分の部屋に入ってしまった。
折れそうなほど細くて華奢な綾女の手。涙目で見つめる綾女は美しく、左近の心を大いに揺さぶっていた。
時がたつにつれ、それは左近にひとつの感情に変わったことを自覚させていた。
「昨日今日会ったばかりなのにな」
同時に、彼女がいると思わせてしまった自分の行動を振り返ってみる。
ひとつ思い当たり、左近は顔を赤くするのであった。
- 現代版
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