綾女の髪が肩を滑り、背中に流れ落ちている。寝息とともに髪の艶が光る。
左近はそれを見ながら、覗く素肌にそっと指を滑らせた。
部屋の中はわずかな明かりしかないが、暗さに慣れた目でははっきりと見える。
つい先ほどまで熱く火照っていた肌は、春の夜風に心地いいほどであった。次第に冷えてきたのか、綾女が毛布をそっと引き上げた。
「寒いか」
左近は綾女を抱きこんだ。触れ合う素肌が次第に体温をあげていく。
傷一つない、お互いの体。
「あの頃は傷だらけだったな」
そっと左腹部に手をやる。当然傷はない。だが、痛みの記憶がある。左近はわずかにその端正な顔をゆがめる。
肉にめり込む刃物の感触、焼け付く痛み、熱く噴き出す血液。己の体を突き抜ける痛み。
同時に綾女への想いがあふれる。綾女のもとへたどり着きたい。ともに生きたい。
どれほどの血が流れ出したのか、体の感覚はなく寒かった。明瞭に覚えている月。綾女の悲しげな顔。
死とは、こういうものか。
「左近、大丈夫?」
綾女の顔が間近に迫っている。よほど驚いたのか、毛布は掛けておらず、先ほどの姿のまま左近に取りすがっている。
「あ、ああ、夢を見たようだ」
「夢?すごく険しい顔をして苦しそうだったけど」
「うん・・・」
左近は前髪をかきあげ、綾女を見た。左近の仕草に綾女は頬を染め、自分の姿に気づき、慌てて胸元まで毛布を引き上げる。その姿がかわいくて、左近は微笑んだ。
そうだ、綾女はここにいる。
「俺も寒い」
「あ・・」
綾女がまとった毛布を外し、左近は綾女の上に覆いかぶさった。ふたりで毛布にくるまる。
「こうすれば暖かい」
優しく唇を重ねる。一度が二度、三度と回数を重ねるうちに、綾女の表情が蕩けてくる。甘く切なげな吐息が左近の耳をくすぐる。お互いの体温が上がりはじめ、綾女の体がほぐれ、左近は己が張り詰めるのを感じた。
「また、抱いていいか」
「うん」
わずかな明かりの中、甘い声と香りが部屋を満たしていった。
- 現代版
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