それから数日。
左近は毎日のようにセミナリヨ公園を訪れたが、綾女の姿はなかった。
あの時満開だった桜は、少しずつ花びらを降らせはじめている。
メールを送っても簡単な、どことなくよそよそしい返事ばかりで、左近は焦っていた。
やはり、あの時のことがショックだったのだろうか。
安土山を見渡せる場所に喫茶店があった。
”葉隠の里”
「まさか?」
落ち着いた雰囲気の店に、佳代と龍馬がいた。
「あら、左近さん」
「左近じゃないか」
「龍馬、佳代さん。ここにいたんだな」
431年ぶりの再会。安土は縁深い場所だった。
「綾女を、知らないか?」
切なそうな声に人妻でありながら佳代はドキッとした。恋をする男の目。こんなに想われて綾女は幸せだと思う。
「常連だよ。ここ何日かは見ないな」
「そうか」
佳代がコーヒーを出しながら言った。
「そういえば、綾女さん真っ赤な顔をして左近に会っちゃったって言っていたわよ」
左近の顔に朱が入る。
「キスされた、とも言っていたわ」
「そうだな、それ以来見ないな」
龍馬が相槌を打つ。
「ああ、そうねぇ、よほどショック…いえ、びっくりしたのかも」
佳代が思わせぶりに大きく同意する。
「やっぱりそうなのか」
小さい声で左近が呟く。深刻そうな表情に佳代が慌ててフォローする。
「だってあの子、真面目でしょ。色々、考えちゃうのよ。それに左近さんもいきなりだったから。でもね、こうして会ったってことは縁があるのよ。私と龍馬みたいに。ね?」
そばで龍馬は倒れそうなくらい真っ赤になっている。
「そうか、そうだな」
左近は少し微笑んで店を後にした。
江藤の丘は、花見客で賑わっている。それを横目に見ながら、左近は安土山に入山した。
綾女からメールが入った。
『これから会える?今、安土山にいるの』
左近からの返事以外にメールをくれなかった綾女。左近は慌てて返事をした。
『俺も安土山にいる。これから天主に向かうところ』
送信してすぐに綾女を見つけた。
「綾女」
「あ、左近」
少し距離を置いて見つめあう。
「会いたかった」
しばらくして声を発したのは綾女だった。綾女のそばに寄り、そっと肩を抱く。
「ここ何日かで、だいぶ思い出したの。左近が好き。ずっと会いたかったの」
綾女が左近を見つめる。そのまま、ふたりは熱いキスをしていた。
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