4月。
桜の固い蕾も、やっと膨らんできた。
女学校を卒業した綾女はそのまま左近の帰りを待っていた。
「綾女さん、左近から手紙が届きましたよ」
義母が綾女に手渡した。綾女は頬を染めてそっと受け取り、自室で読み始めた。
綾女、元気か?
イギリスでの仕事は終わったが、アメリカでひとつ仕事ができたのでニューヨークに寄ってから帰国することになった。
戻る頃には新緑の季節になっているだろう。
綾女に似合うお土産を買ったので、楽しみにしていてほしい。
左近
文は短いが、初めての手紙。綾女は何度も読み返しては帰りを待ち焦がれていた。
桜が咲き誇り、やがて散り終わっていく。
眩しいほどの桜吹雪の中、綾女は左近がよく座っていた庭のベンチに座っていた。
「綾女様、奥様がお呼びです」
女中が呼びにきたため、綾女は立ち上がった。
「お義母さま、綾女です」
いつも明るい居間が何となく陰って見え、綾女は不安な気持ちを抱いた。テーブルの上には電報が置かれており、義父も義母もうなだれている。
「ああ、綾女さん・・」
目を赤く腫らした義母が電報を差し出した。
「まさか、左近に何か・・?」
「左近の乗っていた船が、氷山にぶつかって沈んだのです・・。左近の消息はまだ・・」
義母は泣き崩れた。綾女も電報に目を通し、意識が揺らぐのを感じた。
「きっと・・帰ってくると、左近は言っていました・・だから私は、待ちます・・」
あまりの出来事に涙も出ない綾女。茫然自失に陥りながらも自室に戻り、左近からの手紙を手に取る。
「左近、左近・・」
その時になって、涙が綾女の頬を濡らした。肩を震わせ、声を抑えながら、綾女はむせび泣いていた。
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