明治維新があってから40年余り。
袴姿の女学生が大きな洋館に入っていく。
「ただいま戻りました」
待ちかねていたように、年配の女性が駆けつけ、何ごとか言いつける。たすきをかけ、女学生は足早に去った。
その女学生、綾女は今年の春に婚約し、花嫁修業として夫となる左近の家に住み込んでいた。
だが、綾女は左近に会ったことはない。
「どんな方なのかしら」
綾女16歳。花開く前のみずみずしい乙女である。
家のことも手際よくこなし、明るく可愛らしい少女。
寝具に身を横たえ、綾女は顔も知らない左近に思いを馳せる。
翌朝。
食事の支度をしようと台所に入った綾女は、そこでコーヒーを淹れている青年を見た。
背が高く、茶色の長めの髪、日本人離れした端正な容貌である。
「おはようございます」
綾女は誰だかわからないまま、声をかけた。その青年が振り向く。
「おはよう」
甘い声が耳に心地よい。その青年はカップを持ち、台所を出て行った。
「綾女さん、今日はここはようございます。着替えて食堂までおいでください」
女中頭が駆け込んできて、そう言った。
- ちょっと昔
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