安土に初雪が舞う日。
「ちょっと、またー!」
綾女の部屋のエアコンがまた壊れた。犯人は蘭丸。もちろん直し方も知っている。
「なんだ綾女、また壊したのか」
すっかり毛が生え揃った信長を連れて、蘭丸は綾女の部屋を覗き込んだ。寒いのでダウンジャケットを羽織りながらエアコンの中を覗いている綾女。
「壊したんじゃないわよ。壊れたの。何で私のばかり壊れるのかしら。もう、連休が明けたらクレームつけてやるわ」
ちらりと蘭丸と信長を見る。
「部屋に入れてあげてるの?」
「ああ、天主(犬小屋)は寒いからな。クリスマス寒波が週末は居座るそうだ。綾女は夏と同じように左近と寝るんだろ?」
「え・・っ」
朝食時にさりげない振りをして、クリスマスと年末の予定を聞いてみるが、誰も帰省せずここで過ごすという返事だった。
「今日はイブだし、綾女は左近とデートするんだろ?」
「ああ、そのつもりだ」
綾女に代わって左近が答えている。夏の頃に比べれば、少しは恋人らしくなったかもしれない。キスの回数は増えたし、ふたりで出かける機会も増えた。だが夜は別々に寝ている。時々ふざけて左近が綾女を押し倒すこともあるが、身を翻せば追ってくることもない。
「さ、そろそろ出かけるか。綾女、行くぞ」
京都まで車で1時間。
「ここで調香してもらったんだ。綾女に似合う香り」
綾女が連れて行かれたのは、河原町三条の鳩居堂。綾女のイメージと写真を細かく伝え、四季折々の綾女専用のお香を作ってもらっていた。
「いらっしゃいませ。あら、こちらが綾女様ですね」
店主自ら迎え入れ、奥の部屋でお茶菓子までご馳走になった。
「日向様とは古いお付き合いでしてね、いつもうちを贔屓していただいております」
「まぁ・・」
「香水がいいかと思ったんだが、なにかしっくりとくるものがなくて、こちらに相談したんだ」
「処方帳(レシピ)も専用に作りましたので、いつでもお申し付けくださればお作りできますよ」
店主はにこやかに綾女と左近を交互に見つめた。
店を出ると、斜め向かいは本能寺。
「静かね」
「ああ」
左近の目に、ふとあの頃の綾女が重なって見えた。綾女の目にも、記憶にはないがあの頃の左近が今の左近に重なって見えた。
不安げな表情をした綾女を、左近は静かに抱き寄せた。
「大丈夫だよ」
左近の腕の中で、綾女は頷いた。
- HIT記念
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