青年になった左近。背が高く容姿端麗、剣の腕も里で一、二を争うほどになった。それほどの左近を里の娘たちは放ってはおかない。
「左近様ー」
毎日黄色い声が飛び交う。大胆な女性になると、左近も驚くような忍びの技を発揮し、布団の中で待ち受けることもあった。
だが左近の心の中には春香がいた。すでに夫がいる女性。どんなに想っても報われない恋。満たされない思いを埋めるように、左近はあまたの女性と閨を共にした。甘い声で囁き、長い指を這わせるだけでたいていの女性は体を左近に預ける。
だが一時体は満足しても、心は飢えるばかりだった。
そして、日向の里に暗雲がたれこめる日が近づいてきていた。
左近が所用で里から離れていた間に、里は壊滅してしまった。
焼け残った祠から妖刀の太刀を取り、左近は呆然として立ち尽くしていた。
幼い頃から育んでくれた里の風景が一変している。人や家の焼ける匂いが鼻につく。もはや生き物の姿すら見当たらなかった。
「春香殿・・」
春香の住まい付近を歩いてみるが、左近が捜し求めている姿はなかった。
翌日も里の生き残りがいないかくまなく捜してみたが、やはり誰一人として左近の呼びかけに答える者はいなかった。
虚無感と脱力感に急に襲われ、左近は膝をついた。
誰もいない。
特に愛着は感じていなかったが、乳飲み子の時から生活をしてきた場所。
「世話に・・なりました」
焼け跡に左近は一礼をし、山の中に入っていった。香澄と葉隠れの里に向かうために。
- HIT記念
- 46 view
この記事へのコメントはありません。