姉とはこのようなやさしい人だったのだろうか。
鍛錬で疲れて帰ると、春香はいつもやさしく出迎えてくれた。
「おかえり。お腹がすいたでしょう」
「汗かいたでしょう、これで拭きなさい」
名の通り、春の風を思わせる女性。
姉のように慕う左近が、その気持ちに気づいたのは14歳の時だった。
左近が14歳を過ぎた頃から、春香は距離を置くようになった。
左近の背が春香より高くなり、幼くて可愛かった顔も少年らしく凛々しくなってきている。
「春香殿」
声ももう青年の甘い低い声に変わっている。
その声を聞くたびに春香は落ち着かなくなった。
「左近、どうかしましたか」
気持ちを鎮めてから、春香はゆっくり返事をした。左近が廊下に立ち、春香をうかがっていた。
「どうしました」
「あ、いえ、ただいま戻りました・・」
左近は会釈をして自室に戻った。春香がそばにいるだけで、どうしていいかわからなくなる。少しずつふたりには淡い想いが芽生えていた。
やがて春香に祝言の話が来た。
それがきっかけになりふたりの間は均衡を崩していく。
春香はさらに距離を置くようになり、左近は若さゆえか気持ちに抑えがきかなくなってきた。
- HIT記念
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