左近は部屋の外で綾女の気配を感じた。
「いるのか?」
真っ暗な部屋に月明かりが射し込んでいる。かすかに衣擦れの音がした。
「綾女、すまなかった」
そっと抱く。忍び装束のままの綾女は、体を固くしていた。
「明かりを・・」
火をともそうとする綾女の手をそっと押さえる。
「このままで・・・そうでないと話せない」
綾女は黙って左近の話を聞いていた。
「その人のこと、本当に好きなのだな」
「ああ、好きだった」
綾女を抱く手に力が入る。
「でも今は綾女が好きだ」
左近は、やっと過去の自分に決別しようとしていた。
「無理して忘れなくてもいいぞ」
綾女のやさしい声がした。
「え?」
「そういう恋をしてきて、今の左近がいるわけだから。話してくれたことを私は嬉しく思っている。左近が好きなことは変わらないから」
綾女はきゅっと左近の腕を握った。
その晩、その部屋にとうとう明かりがつくことはなかった。
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何度も推敲されたそうですね。
以前から読みたかったお話の展開そのもので、驚きました! とても嬉しいです。
左近の過去の恋を受け入れ、今を大事に一緒に歩もうとする綾女に共感しました。愛すれば愛するほど、不安になったり嫉妬したり… 時にすれ違いことで愛情を確心できるのかもしれません。
またまた紅梅様の書かれるお話に、惚れてしまいました。
素適なお話を有難うございます。
>以前から読みたかったお話の展開
え、そうだったんですか?
だとすると、とてもタイムリーにお話を書かせてもらったんですね。嬉しいです。
今の自分があるのは、過去にさまざまな経験をし、それを糧にしてきているからだと常々思っています。
このふたりも同じ。丸ごと相手を受け入れることは容易ではないけれど、それができるくらい器の大きいふたりに成長できると思います。