「左近か」
答えはなく、すっと左近が入ってきた。
いつもの自信過剰な態度はなく、うなだれているようにも見える。
「どがいしたがじゃ」
「おぬしと酒でも飲もうかと思ってな」
徳利とお猪口が置かれる。
「とてもそういう気分ではないじゃろ。綾女は?」
左近は手酌をしはじめた。
「綾女は出て行った」
「なんでじゃ」
くいっと酒を煽る。気付けの一杯のように。
左近はため息をつくと話しはじめた。
相槌も打たず、黙って話を聞いていた龍馬は、話が終わってしばらくしてから口を開いた。
「それで。おまさんはこれからどうする気じゃ」
「あいつを…追う」
「追ってどうする」
「今の話をする。辛い話かもしれないが、俺はあいつを失いたくない」
龍馬は口元をほころばせた。
「好きなんじゃろ」
「ああ」
左近がやっと微笑んだ。
「男は一度惚れたら、泣かせちゃいかん」
「そうだな。では、俺は」
左近が立ち上がった。それを龍馬が制した。
「本気で探すのであれば、まずは自分の部屋で酔いを醒ましていくがじゃ」
「承知した」
左近は酒を龍馬に渡し、部屋に戻っていった。
「まったく、おちおち眠れもせん」
だが楽しそうに酒を口に含んだ。
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