気づかれていた。
左近は答えることができなかった。綾女の顔が悲しそうにゆがんだ。
「そのとおりなんだな」
綾女の頬を涙が伝った。
「私は・・綾女というひとりの人間だ。誰かの身代わりではない」
ゆっくりと立ち上がり、夜着を脱いだ。見事な体が左近の前に現れたが、すぐに忍び装束で覆われていった。髪をひとつに結い上げる。
「左近に私は無用だろう。その女人と添い遂げればいい」
そして出て行った。
「龍馬殿」
「なんじゃ、入れ」
綾女は龍馬の部屋に入った。
「私はここから出て行きます。ご挨拶に伺いました」
「左近はなにしちょる」
綾女は怒りを顔に浮かべた。
「あやつは関係ない!」
龍馬は激しい口調の綾女に、これはケンカでもしたかと思った。
「何があったんじゃ。わしでよければ話を聴くぞ」
綾女は戸惑ったが、やがてことの次第を話し始めた。
「ふぅむ・・」
龍馬は綾女に同意するように何度も頷きながら聞いていた。
「それは左近が悪い」
綾女は龍馬を見た。
「男は、一度惚れたらそのおなごを泣かせてはいかんのじゃ」
綾女は近づく気配に気がついた。龍馬も頷き、綾女は姿を隠した。
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