昼頃になり、日向の里に入った。
出迎えを受け、綾女はしつらえられた部屋に入った。
花嫁道具とはいっても、部屋や屋敷の立派さに比べるといささか地味に見えた。
それでもさほど裕福ではない香澄の精いっぱいの餞だった。
もともとは姉の皐月のために用意された品々。
「姫さま、湯浴みをなさいませ」
まだ明るいうちから湯に入るのは初めてのことだ。同じ女性といえど、今見知ったばかりの者に自分の肌を見られるのは気恥ずかしかった。
「ひとりでできますので」
やんわりと言葉をかけると、女性は戸の外に下がった。
自分でもめったに見ない肌。日焼けを知らないように白い肌は瑞々しく、湯をはじいている。久しぶりに下ろした髪は腰まで伸びている。
1週間も歩き続けて野宿をし、埃にまみれていた体をゆっくりと洗い流す。
湯からあがると、単衣を身につけて自室へ向かい、身支度が始まった。
髪を梳かれ、化粧を施され、紅がさされる。
鏡に映る綾女は眩しいほどの美少女に変わっていく。
色白なため、おしろいも少ししかつけずに身支度は終わった。
「何ておきれいな…」
侍女のため息が聞こえる。
花嫁衣装を身につけた綾女が座敷に入っていくと、どよめきが漏れた。
少女から女性に移りゆく年ごろ。少女の青さと女性の甘さが混じり合い、凛とした姿も相まって神々しささえ感じられる。
上座に座っていた男も一瞬息をのんだが、すぐに表情を隠してしまった。
その男…。綾女は表情にこそ出さなかったが、驚いていた。
明るい色の髪、琥珀色の瞳。昨夜の男。
この人が、左近。
そして長い祝言が始まった。
- あの時代
- 29 view
この記事へのコメントはありません。