綾女はあたたかいものに包まれて目を開けた。
目の前には少しはだけた男の胸。そして枕だと思っていたのは男の腕。
「ひ…!」
綾女は飛び起きた。
「眠れたか」
目を閉じたまま左近が声をかける。綾女が振り向くと、左近は静かに目を開けて綾女を見た。少し気だるげな顔はドキドキするほど色っぽい。
綾女は自分の身じまいを確かめた。
「何もしていない。案ずるな」
左近は体を起こし、後ろから綾女を抱きしめた。綾女は固まってしまうが、左近の手は身体中を撫でさする。
「それにしても、抱き心地のいい…いや、いい夢を見られた」
首筋まで赤くなっている綾女のうなじに、そっと唇を押しつけて左近は部屋から出て行った。
体に残る左近の感触。
綾女は頬の赤みがいつまでも引かなかった。
日向に来てからひと月が経った。
「姫さま、文でございます」
皐月からの文が届いた。無事に男児を出産したことが綴られていた。
「幸せそうでよかった」
綾女はくすっと笑った。
「何を読んでいるんだ」
左近が後ろから覗き込む。綾女は文を左近に見せた。
このひと月の間に、ふたりの間はずいぶん緊張がなくなってきた。だが時折左近が抱きしめる程度である。
左近はずっと綾女の気持ちがほぐれるのを待っているのだった。
「俺たちもこのような子がほしいと思わないか?」
左近は冷や冷やしながら言ってみた。綾女はすんなり頷く。
「そうか、ならば今宵…」
左近は綾女を抱きしめ、とろけるような口づけをした。綾女は初めてのことに少し驚いたが、うっとりと眼を閉じた。
- あの時代
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