冥府魔道が閉じ、あたりには月の照らす明かりと静けさだけが残った。
綾女は石垣の上から倒れている左近を見下ろした。
「左近!」
左近は息も絶え絶えで、喀血した。
「左近、大丈夫か。左近!」
脇腹からの出血は少なくなっていたが、それはすでに失血の状態であった。もともとの白い顔からすっかり血の気がなくなり、唇も白くなっていた。
誰が見てももう風前の灯である。
「やったな・・・」
「あ、ああ、やった」
「これで・・おぬしも女に・・戻れるな」
綾女は懸命に涙がこぼれそうになるのを耐えた。
唇がわなないて、うまく言葉が出てこない。
左近はそんな綾女を見つめていた。
「左近・・・」
たまらず一粒の涙が、左近の頬に落ちた。
「泣くな。お前は・・生きるんだ」
左近はひとつ深く呼吸をした。目の前にいる愛しい者の姿がかすみ、声が遠のいていく。
ふう・・・。
最後にはあいつに笑ってほしかった。泣かせるなんて、男として失格だな。
- あの時代
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