蘭丸は左近の様子にあきれていた。
「まあよくそんなに行ったり来たりするものだ」
綾女が病で寝付いていた1週間というもの、左近は落ち着きがなかった。
一度綾女の体を拭きに行った時、熱のこもった肌の美しさに見とれていた。苦しげな息が情を交わしているときの吐息のようで、つい抱きたくなってしまった。
「ばかたれ!」
蘭丸に一喝され、立ち入り禁止の結界を張られてしまった。
「まったくお前は節操がないな」
しゅんとしている長身の左近。大の男の姿としては、見栄えのいいものではなかった。
「ただでさえお前の情は激しすぎて綾女の体が悲鳴を上げているではないか。少しは相手のことも思いやれ。まして今は病人だぞ」
蘭丸は左近に懇々と説教をする毎日であった。
蝋梅が咲き初めしころ、綾女の部屋の障子が開けられた。
二言三言、左近と綾女が言葉を交わし、愛の口づけを綾女の額に残して左近が戻ってきた。余韻に浸る綾女。
「左近、やればできるではないか。見直したぞ」
蘭丸が褒めた。左近は微妙な顔をしていた。
「なぜかその気になれなかったのだ。あまりに美しくて艶やかで、それでいて儚くてな」
「気圧されたか」
「そうやもしれぬ。まこと、女は強い」
左近は皮肉げに笑った。
・・もう少し思いを抑えてもいいものだと思うがな。だが今のこやつにはこれが精一杯であろうの。綾女、前途多難だな・・
蘭丸はひそかにため息をついた。
- あの時代
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