綾女は涙をぬぐうと、左近の体を抱いた。
「左近、行くな左近!」
綾女の心の中に大きな変化が生まれた。
私も左近を愛しているのだ。。。
今になって何ということだ。
すでに左近は冷たくなっていた。
「そのようにいつまでもすがっておると、その者は成仏できぬぞ」
何の気配もなく、声だけが聞こえた。
綾女はとっさに小太刀の柄に手をかけ、構える。振り向くとそこに老婆がいた。
「何者だ」
老婆は宙を見やると呟いた。
「ほれ、この者の魂がこの地から離れぬ。最期の記憶だけ残して苦しんでおる。哀れとは思わぬか」
綾女が抜いた小太刀の光が、空を切り裂いた。
「まやかしだろう。惑わされぬ」
老婆は少し離れたところに移っており、やれやれという顔をした。
「苦しみや怒り、恨みが残っている魂は、すべからく妖魔になってしまうもの。その者も同じじゃ。愛する者が妖魔になり、お前はそれを狩る。それでよいのか」
淡々とした老婆の言葉に綾女は返す言葉が見つからなかった。
「では、お前は何を言いたいのだ」
「私なら、蘇らせることができる。もとの人としてな」
- あの時代
- 112 view
この記事へのコメントはありません。