綾女は左近に会うのが怖かった。
気配を悟られないよう、そっと布団に入ろうとした。
「!」
綾女の布団の中に背を向けた左近がいた。
「何故ここにいる。おぬしの部屋は隣だろう」
「もう帰ってくる頃だと思ってな。ずいぶんゆっくりであったな」
ゆっくりと綾女に向き直る。半年振りの再会。綾女は左近から目を離せずにいた。優しい眼差しで綾女を見つめている。
「よう、戻ったな」
左近の優しい指が綾女の頬に触れる。そして唇へ。
「今、戻った…」
声にならない声が綾女の唇から漏れ、それを左近は吸い取った。
「この半年、お前が帰ってくるのを待っていた。必ず戻ってくるとな」
・・しばらく見ないうちに、さらに美しくなった・・
表情に女らしさが増し、今まさに成熟する色香が芳しいほどだった。
信濃の国主は、この綾女を抱いたのだろうか。綾女は、抱かれたのだろうか。
左近の胸にどす黒い嫉妬心が生まれた。
綾女はそれを知らない。
左近と再び会えた喜びでいっぱいだった。
- あの時代
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