安土の件があってから1年。
綾女と左近は身も心も蕩けるような甘美な時間をともに過ごせるようになっていた。いつの間にか里人にも綾女が女であることは知れ渡っていた。
「綾女、ここのところ一段とまた胸が大きくなったな」
左近が服の上から触りながら言った。
「痛いから触るな」
綾女が手をはたく。体もだるいし、熱っぽい。
「左近が毎晩・・・」
つい口を滑らせた。そう、あの時以来二人は毎晩体を重ねていた。左近は平気だが、綾女の体力が持たないこともあった。
「毎晩?俺のせいか?お前だってもっともっととおねだりするじゃないか」
綾女に殴られそうになるが、ひらりと身をかわした。
「そんな恥ずかしいことを言うな」
とたんにめまいを感じ、綾女は左近の腕の中で意識を失った。
綾女が気づくとちょうど医師が来たところだった。
「わざわざ、すみません」
左近は綾女の傍にいた。医師が診察を始めた。問診に綾女が答える。
「おめでたですな」
「えっ」
綾女と左近は目を見合わせた。毎晩左近に抱かれていたのだから、心当たりはありありだった。
「しばらくつわりはあるが、無理せずゆったりと過ごしなさい。腹に力を入れることは謹んで。いいですな、ご主人」
笑いながら左近に釘を刺した。
長の妻が何くれとなく世話をしに通ってきてくれる。
「私のところは息子ばかりだから、あなたが娘のように思えてね」
「色々とお世話かけます」
綾女はその日髪を下ろし、婦人物の服に着替えた。
「まあ、本当にきれい。こんなきれいな奥さんを持って、ご主人は幸せですね」
長の妻より左近のほうが驚き、じっと見惚れていた。
「左近、そのように見なくてもよいではないか」
綾女が頬を赤らめ、上目遣いでそっと睨んだ。そのあでやかさに左近はたまらなくなったが、医師の言葉を思い出し、我慢した。
おなかが目立つようになり、綾女が里を散歩していると、里の子供たちが寄ってきた。
「お姉ちゃん、おなか大きいんでしょ」
「いつ生まれるの?」
綾女はニコニコして子供たちと話をしていた。
「子供はかわいいな。この子ももうすぐあの子たちと遊べるようになるな」
「左近、気が早いぞ」
綾女のおなかに手を添え、優しく撫でる。
そこに長の妻が来た。
「あら、いい絵。そうね、そうやって子供に話しかけるってとても大事なのよ」
「ここのところ、動くんです」
綾女がニコニコして報告する。長の妻が左近をそっと呼んだ。
「明日先生のところに行くでしょ。聞きたいことは聞いちゃいなさい」
「・・はい」
左近はにっこり笑った。
翌日夜。
「くれぐれも激しくせぬように」
と、医師の言葉を聞いた左近と綾女。おなかに負担をかけないよう注意しながら、久しぶりに睦みあった。ゆったりとしたそれは二人の絆をいっそう強めた。
「左近、ありがとう」
綾女からその言葉が聞かれ、左近も嬉しかった。
沈丁花の香りが満ちる中、綾女は子供を産んだ。
左近に似た男の子。
「お父さんに似て、きれいな坊やね」
髪の色は綾女に似て黒っぽかったが、日に透けると茶色に見えた。
左近は日向の里で自分について回っていた少年の名前をつけた。
母乳の飲みもよく、左近はその様子をじっと見ていた。
「何を見ている」
「陣平はいいなぁ、と思ってな」
綾女は恥ずかしそうに胸を隠した。左近はとても協力的でオムツを替えたり風呂に入れていた。
陣平がおなかいっぱいになった頃、長の妻が来た。
「綾女さん、陣平ちゃんを借りてもいいかしら」
長の妻はしょっちゅうこうして綾女の時間を作ってくれる。おかげで1時間でも眠ったり、家のことを片付けることができていた。
「綾女」
「ん?」
「そろそろいいだろう?」
綾女の顔色が曇った。
「まだ・・駄目なんじゃないのか」
「今日、医者に聞いてきた。お前の体も戻ってだいぶたつし、問題はないと言っていた」
「でも」
「怖いのか」
綾女はうなづいた。出産して自分の体は変わってしまい、醜くなってしまったと思っている。
「見てやる」
左近は綾女をリラックスさせるように優しく接した。出産前と変わらず、綾女の体は魅力的だった。少し固いところはあるが、左近は焦らずゆっくり進めた。
「あ…」
左近が綾女を捕らえる。痛みもなく快楽が綾女を襲った。左近は優しくいたわり、綾女が達するのを待って自分を開放した。
「よかった・・・」
綾女から安堵の声が漏れた。以前と同じように、それよりももっと甘美に左近を感じることができる。左近もそんな綾女を見てほっとした。
翌年、綾女は女児を出産、桔梗と名づけた。子育てに忙しい毎日だが、左近の協力も得て(もちろん夜も)生活は充実している。
それでも時々、左近も綾女も満月の夜には奇跡の日々を思い出す。そして今の生活があることを心から、あの老婆に感謝するのであった。
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