・・よいのか?・・
綾女は自分の記憶が失われてしまうことに戸惑ったが、それよりも左近に会いたいと言う想いが大きかった。
「私は、何をすればいいのだ」
「心は決まったか」
老婆は左近の回りに円を描き、何か呪文を唱え始めた。
「これから魂呼びをする。並んで寝よ」
綾女は左近のすぐ隣に横たわった。左近の横顔を見つめ、目を閉じた。
瞬間、まばゆい光が辺りを覆った。
冷たい雫が左近の顔に落ちた。
左近、左近・・
誰かが遠くから呼んでいる。そばをかすめる黒髪から、甘い匂いがする。
控えめだが優しい声。
ああ、俺はこの者を愛している。
綾女。
左近は覚醒した。
薄暗い中、天井の隙間から次第に日の光が射してくる。
自分は死んだはずではなかったか。
ゆっくり辺りを見回すも、洞窟の壁しか見えない。
ふと思い出して、致命傷だったはずの腹部に触るが、傷は完治している。
夢か、まやかしかとも疑うが、邪悪な気配はなかった。
「あ・・やめ」
左近はゆっくり体を起こした。あの黒髪の、声の主を早く見つけたかった。
- あの時代
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