日が暮れかけたけもの道を、ひとり歩いている。歩くというより、小走りのような速さ。晩秋の風がその人物の髪を揺らした。
「そろそろ雪の季節だな」
ひとり呟く。
先日、平戸定倖(ひらとさだゆき)という妖魔を倒した。安土で一応の終焉を遂げたかに見えたが、妖魔はまだ至るところに棲んでいる。妖刀の使い手が私だけとなった今、妖魔を狩るのは私の使命だった。
もはや私は人ではない気がする。
妖魔を狩り、妖魔の血を浴び、確実に私の体は蝕まれているはずだ。
いや、蝕まれている。
私の体は、年を重ねることを忘れてしまった。
日が暮れ、火で暖を取りながら炎を見つめていた。
「何を考えているのだ、綾女」
風が語りかけてきた。
「左近か。この頃思うのだ、私はまだ人だろうかと」
「何故だ」
「何となくな。年をとらなくなった気がするのだ」
風がやんだ。声もやんだ。
綾女はまた物思いに沈んでいった。
安土から10年。
私はまださまよっている。
- あの時代
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