綾女の背中の痛みはしつこく残っている。すっかり傷の癒えた左近は綾女の湿布を取り替えようといつものように声をかけた。
「換えるぞ、綾女」
「あ、今日は・・いい・・」
綾女はいつも拒む。何度となく左近の手に触れられたとはいえ、やはり恥ずかしさが先にたつ。だが背中は自分では手当てはできない。
「きちんと手当てをしないと後々まで治りが悪くなるぞ」
背中の痛みのため、寝返りもままならず、起き上がることも左近の助けをかりている。左近の手が触れるたびに綾女は気恥ずかしい思いになる。
する・・
着物が肩から滑り落ち、真っ白な背中が現れる。その中央には大きめの湿布が貼ってあり、乾きかけていた。
「痛みはまだあるか?」
「この頃は、少し楽になってきた」
左近の手が湿布を剥がす。湯に浸した手ぬぐいで残っている湿布を取り、丁寧に拭く。水気を飛ばしている間に湿布薬を混ぜ合わせ、布に塗りつける。
「貼るぞ」
肌に触れたとたん、綾女はびくんと震えた。この冷たさ。いきなり貼られたら驚いてしまう。
「いつまでも、慣れぬものだな」
息を整えながら綾女が呟く。
「世話をかけて、すまないな」
「そうでもないぞ」
貼り終わった左近が着物を着せ掛けながら答えた。
「あの戦いでふたりとも生き延びられた。これも運命(さだめ)とは思わないか」
「運命?」
「覚えているか。男と女として話をするのもいいだろう・・と」
左近は後ろから綾女の肩を抱いた。
- あの時代
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