ひと雨ごとに涼しくなる。
綾女が目を覚ました時、真正面に左近の顔があった。綾女の身体を柔らかく抱き上げる。
「あ・・」
それは毎朝のこと。背中の痛みで起き上がれない綾女を左近が抱き上げている。いつもより左近が温かく感じられるのは、外が涼しいせいだろう。
「いつもすまないな」
ふたり見つめあう。幾日このような時間をともにしてきたことだろう。初めのうちは綾女も慣れず、体を硬くして背中の痛みに拍車をかけていたが、今ではゆったりと左近に身を預けられるようになった。
「さ、湿布を貼り換えるから」
いつもなら断ろうとする綾女が素直に背を向けた。
「痛みは殆どなくなった。だから明日からはひとりで起きるし、手当てももういいぞ」
「大丈夫か?」
綾女は頷いた。確かに痛みは殆どなくなり、身体も動くようになっている。それよりも左近の負担が気にかかって仕方がなかった。
「今日一日、静かに過ごせば大丈夫だ。幸い雨だし、ちょうどいいだろう」
胸元を着物で押さえながら綾女は静かに言った。
「何をして過ごすんだ?」
「そうだな・・。左近なら何をするんだ」
「俺か。俺は・・」
着物を羽織らせながら左近は綾女を軽く抱き上げ、自分の方に綾女を向かせた。
「左近?」
慌てて胸元をかき合わせ、白い足を着物の裾で隠そうとする綾女。
「お前と、男と女の話でもしようかと・・思っている」
左近の顔が次第に近づいてくる。綾女は片手で着物を押さえ、空いた手で左近の胸を押した。左近は綾女を抱きしめた。こんなにも華奢で柔らかい身体。その身体に忍び装束をまとい、鬼神のように妖刀を振りかざして戦場に駆け込んでいく激しさ。左近は守りたかった。
綾女は左近の鼓動を聞いていた。幾分早いのは緊張しているからか。
「俺の話し相手になってくれるか」
綾女は左近の胸に顔をすり寄せ、頷いた。
- あの時代
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