雨は昼過ぎには止み、夕陽が射してきた。光は縁側にもたれている綾女を照らし、長い影を作った。
夕方を告げるヒグラシが鳴き始めている。
「もう、1日が終わろうとしているんだな」
そっと呟き、唇に指を触れる。熱くやや乾いた唇が触れたのは二度目。一度目はただ驚いて思い切り叩いてしまったが、今回はなされるがままだった。あの時も、今回も拒む気持ちはなかった。
「綾女」
不意に後ろから抱きしめられ、うなじに熱いものを押し付けられる。
「あ・・っ」
抱きしめる腕は、左近のものではない。幾分細い。うなじから首筋に熱いものは移る。綾女はしびれたように動けなかった。
「や・・あ・・っ」
かろうじて細い声をあげる。鳥肌が立ち、恐怖がつのる。
「好きだ、綾女」
かすれたような声は蘭丸だった。綾女は蘭丸から逃れようとしたが、若い青年の力は強い。抱きかかえるようにして蘭丸は綾女を部屋に入れた。
綾女の声にならない声が一瞬響き、すぐに消えていった。
- あの時代
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