雨が静かに降っている。
トクン、トクン・・
左近の鼓動を聞いている綾女。ふたりの間に会話はない。左近は綾女を優しく抱きこみ、時々、髪を撫でている。
綾女も今の状況を驚くほど自然に受け止めていた。
まさか自分が左近とこうなるとは思ってもいなかった。
でも・・こうして身を委ねる相手がいることに、綾女は小さな安心感を抱いていた。
どのくらいの時が経ったのだろうか。
綾女はふと目を開けた。左近の腕に抱かれたままの自分。先ほどと変わらず、左近は優しい瞳で綾女を見つめていた。
「あ・・私・・」
寝顔を見られていた、そう思って綾女は恥ずかしそうに目を伏せる。その仕草が不意に愛おしくなり、左近は・・・。
「んっ」
柔らかな唇を左近は味わっていた。何度となく重ねるうちにその唇は艶やかに色づき、潤いが増してきた。
やがてゆっくりと唇を離し、左近は綾女を見つめる。
潤んだ瞳、赤く染まった唇、紅潮した頬にかかるいく筋かの黒髪・・・。
こんなにきれいだっただろうか・・。
「左近?」
そう思われているとは知らない綾女は、先ほどの口付けにぼうっとなっていた。
- あの時代
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