髪をひとつに結い、忍び装束を着て綾女は日向の里を見下ろしていた。
ここに嫁いで4年。綾女はのびのびと成長していた。
「綾女。ここにいたのか」
低く甘い声。忍び装束の左近が綾女の隣に立つ。
嫁いだ夜に抱きしめて以来、左近は綾女に触れようとしない。綾女から触れることもはばかられ、知らぬ振りをしていた。
木の幹に手をついて綾女が立っていると、左近が近づいた。正面に綾女を見据える。
「なに・・?」
綾女は木の幹に身を寄せ、距離をおこうとした。だがそれよりも早く左近が両手で綾女を封じ込める。
「なにを・・するの・・」
間近で見る端正な左近の顔。
「目を閉じろ」
言われるままに綾女は長い睫を伏せた。柔らかく熱いものが唇に触れる。綾女は驚いて目を見開くが、何度も重ねられ、目を閉じてしまった。
「はぁ・・」
やっと唇が離れると、綾女は息を吐き出した。体から力が抜け、左近に抱きしめられている。
「左近・・」
「好きだ」
綾女は嬉しくなって左近の背に手を回した。固く広い背中。
「だって、私たち、夫婦でしょう?」
「夫婦だからじゃない。綾女だから好きになった」
綾女は顔を赤らめた。
綾女16歳、左近20歳の冬だった。
- あの時代
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