「綾女、ちょっと話があるんだが」
左近が綾女を呼び出した。
「何だ、左近」
夕焼けがきれいな丘の上だった。
「大丈夫か?」
左近が心配そうに綾女をいたわる。綾女は笑ってゆっくり首を振った。
「さすが、左近の兄上だな。そっくりだ」
「俺は、あそこまで強引じゃないぞ」
「そうか?」
綾女はくすくす笑った。左近は綾女を抱き寄せた。ふわり、と甘い香りが漂う。
「あ・・」
戸惑う綾女をそのまま抱きしめる。暖かな左近の胸に、綾女はそっと身体を預けた。
「俺が、守るから」
「左近…」
ふたりの影が長く伸びていたが、やがてゆっくりと丘から消えていった。
「よし、今から俺は綾女のところに行くぞ」
喜平次が枕を持って宣言した。
「やめたほうがいい」
左近はこめかみに青筋を浮かべながら喜平次に注意した。
「綾女も影忍だ。ただの忍びとはわけが違う」
「何を甘いことを言っている。俺は綾女を今宵、妻にする」
「何?」
左近の顔が険しくなる。
いきなり、いきなりソレかよっ!
綾女の部屋の前で言い争っていると棒状の手裏剣がふたりの鼻先をかすめ、縁側の柱に突き刺さった。
「うるさい!」
綾女の怒号が響いた。
ふたりは刺さっている手裏剣を見て少し顔色が青くなっていた。
「言ったとおりだろう?」
「ああ・・・」
すごすごと引き下がるふたりだった。
- あの時代
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