海でのデート以来、俺は綾女が気になって仕方がなかった。
勢いで一度だけ唇を重ねてしまったが、綾女は変わらない笑顔で俺に接してくる。
まぁ、嫌われるよりはいいけどさ。
「いってきまーす。あら、左近。珍しい」
「珍しいとはなんだよ」
「遅刻魔なのに」
綾女がくすくす笑う。
今日は登校日。なんだって夏休みに1日だけ入れるんだか。いつもより太陽が暑い気がしてくる。
真っ白なブラウスに赤いリボン。短めのスカート。制服の綾女もすごく可愛い。でもけっこうオトナな身体なんだよなぁ・・・。
「左近、顔赤いよ。どうかした?」
綾女の水着姿を思い出していたが、至近距離で覗き込まれ、俺は驚いた。
「まーたよからぬことを考えていたでしょ。目尻が下がってるよ」
呆れたように綾女は言い捨て、さっさと先に行ってしまった。
登校日といっても何のことはない。ホームルームをちょっとやっただけ。午前中で終わる。
クラスの奴らは結構律儀でほぼ顔をそろえていた。
「左近、お前綾女と仲いいじゃないか」
「は?」
「海でデートしてただろ」
「ああ、見た見た。背中に手を入れてモゾモゾしていたな」
「あのあとどうしたんだよ。海でデートのあとは、お決まりのコースか?」
俺のこめかみに青筋がひとつ浮いた。
「違うよ、あれはあいつが誘ってきたから一緒に海に行っただけだ」
「ほー、あいつですか。お熱いですなぁ」
俺のこめかみの青筋が増えた。だがこれ以上何を言ってもからかわれる元になるだけだ。俺は黙ってその場を立ち去った。
「左近」
綾女が近づいてきた。困った顔をしている。
「なんだ?」
「忘れていたんだけど、思い出したの。うちと左近のご両親、今晩温泉に行っているじゃない。ご飯どうする?」
そういえばそうだった。カレンダーにグリグリと赤いマークがふたつついていた。ふたつ・・・。
「2泊3日だったな、確か・・・」
「私、おばさんに頼まれたの。左近の監督をしてねって」
母さんも母さんだ。年頃の男女が一緒にいたら何があるかわからないのに、そう気安く頼むか?それとも俺のことは綾女に任せていればいいと踏んだのか?
「何でもいいけど、お前作るの?」
「うん。だから何が食べたい?」
キラキラとした顔。重ねた唇。俺は平静でいられるんだろうか・・・。
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