「炎情」は、妖刀伝二次小説サイトです。 綾女と左近の、本編でのあの別れに納得できなくて、色々な妄想を膨らませ、ちりばめています。

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蓬莱洞の奇跡1

「ひどい雨ね」
ハイキングに出掛けた帰りに、夕立にあった。慌てて駆け込んだバスの停留所。待ち合いのベンチと屋根はあるが、山の中のバスは本数が少ない。
「次は…1時間後?ええー、行ったばかり?」
ため息をついてひとり、空を見上げていると、若い男性が飛び込んできた。
「降られたー。あれ、君は」
「あ」
お弁当を食べているときに、その男性にウェットティッシュを何枚か分けてあげた。転びそうになって手をつき、汚れていたからだった。
「さっきはありがとう」
「いいえ」
男性はバス停の時間を見て、ため息をついた。小さいベンチは、2人が座ると肩が触れる。綾女は少し体をすくませた。
「ハイキングにはよく行くの?」
男性が話しかけてきた。
「たまにです。今回は前から気になっていた飛騨の蓬莱洞に行ってみたくて」
「蓬莱洞?実は俺もすごく気になっていた。何もない、ただの洞窟らしいけれど」
綾女は驚いた。ガイドブックや地図にも載っていないことが多く、文献やつてを頼ってやっと探し当てた場所。かなり山奥なので朝早く家を出ないと日帰りできない。
「どうして蓬莱洞を?」
聞かれて綾女は思い返した。
「よくわからないけど、そこで何かあったんじゃないかと、行けばわかるかと思って」
男性は綾女を見つめた。
「もう行ってきた?」
「いえ、行こうとしたけれど雨に降られて。今回は時間が厳しくなってしまったから、また機会をつくって行きます」
「行こう」
男性は綾女の手を握り、走り出した。
「ちょっと、えええっ」
雨が降るなか、5分ほど走ると洞窟が見えてきた。入口はやや狭いが、中は広かった。
「ここ?」
濡れた体を拭きながら綾女が聞くと、男性は頷いた。
「そういえば、名前を聞いていなかった。俺は左近。君は?」
「綾女…」
不意に唇を奪われ、綾女は驚いた。反射的に左近の頬を叩いた。
「いきなり、何を…あ…」
ずいぶん昔に同じ出来事があった。ありありと思い出す。
左近が優しく抱きしめる。
「奇跡だよ。また綾女に恋することができる。今度は必ず成就させる」
綾女も左近の背中にそっと手を回した。

ぎりぎりバスに間に合った。それを逃したらもうバスはない。外は薄暗くなってきていた。2人は身を寄せあい、手を握っている。お互いに恋をしていた。
駅に着くとすっかり暗くなっている。名残惜しそうにお互いを見つめながら別れた。

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