翌週。綾女は前日のうちに買い物に行っており、朝から料理を作っていた。木曜も休みだったが、同僚が休んだため、急遽代理出勤をした。その代休が日曜に取れた。
「左近は早朝に家を出るって言ってたけど、何時に出たのかしら。まさか3時か4時じゃないわよね」
時計を見ると6時。あと一品作ろうかと冷蔵庫を開けると、遠慮しがちなノックが聞こえた。
「まさか」
覗き窓から確認すると、左近の端正な横顔が見えた。
「左近」
「おはよう」
早朝のためひそひそ声。綾女は左近を家の中に入れた。
「いい匂い。外までいい匂いがしていたよ。起きていたんだな。もし寝ていたら電話しようと思っていた」
「そう?早かったのね。何時に向こうを出たの?」
「3時」
ケロッとして左近が答えた。
「3時?私が起きた時間」
「綾女も早起きだな。まぁ、これだけ料理を作るならその時間に起きるか」
リビングのテーブルにずらりと並べられた料理。
「だって、左近と少しでも長くいたいんだもん」
上目遣いで左近を見ると、とびきり甘いキスをされた。
「その仕草、反則。俺以外の男にするなよ」
「うん、しない」
綾女は笑って熱いお茶を出した。左近はおいしそうに飲み干す。
「週末の早朝は道が空いているからよかったよ。一気に来れた」
「もう、無理しないでね。眠くなったら休憩とるのよ」
「そうするよ」
左近はリビングのソファにもたれた。少しすると寝息が聞こえてきた。
「無理してるじゃない」
綾女は肌掛けをかけてあげた。先週蓬莱洞で見た寝顔と一緒だった。
一緒に暮らすと、こういう景色が毎日みられるのかな。
しばらく寝顔を見つめて、綾女は物音を立てないように台所を片付けた。
左近が目を開けた。見慣れない景色に一瞬考えたが、綾女の部屋に来ていると思いだした。
「あ、ごめん、うっかり寝ちゃった」
「もう起きたの?30分だよ、疲れていたらもう少し休んでいて」
パソコンの前で綾女が何かしている。目にも止まらない速さのブラインドタッチで打ち込みをしていてすぐに終わった。
「仕事?」
「あ、うん。昨日定時で上がったんだけど、そのあとバグの報告があって今直したところ。もう大丈夫よ、動作確認もしたし」
「SE?じゃないな、デザイナー?」
「あ、すごい、よくわかったね。両方兼ねてるよ。同業者?」
「いや、俺のは趣味なんだ。本業は綾女研究家」
綾女が左近の隣に座った。
「え?何の研究?」
「綾女の、研究」
抱き合ってキスをする。甘い甘いキス。
「私の研究?何をするの…?」
「どれくらい俺が好きかとか、どこをどうしたら綾女が喜ぶかとか、その研究」
「一緒にご飯食べてくれたら、それだけで嬉しいよ。おなかすいたー」
綾女は冷蔵庫にサラダを取りに行った。
「いただきまーす」
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