蓬莱洞に着き、中に入る。改めて中を見渡すと、寝袋を並べれば二人でも寝られる広さだった。
「これならテントを設営しなくても済む広さだな」
綾女は迷った。着替え用にと口実をつけてテントを張り、中で寝た方がいいのか、それとも寝袋を並べてしまってもいいのか。
左近は洞窟中の少しへこんだところにテントを簡易的に張った。そこに荷物を置くようだ。左近は着替え始め、綾女もそれに倣った。
汗をかいたため、テントに入って綾女は背中に入れていたタオルを抜いた。服を脱ぎ、デオドラントシートで体を拭く。結っていた髪をほどき、指を入れて軽くスプレーする。無香性の物を使っているが、綾女が普段使っているシャンプーの香りがした。髪を結いなおし、服も直してザックから夕食の材料を取り出した。
「まだ夕方だけど山の時間は早いから」
「うん」
「何を作るんだ?」
綾女は材料を取り出し、火を起こして混ぜ始めた。
「チキンクリームスープパスタ。牛乳とお水とパスタのスープを入れてチキンをほぐして、沸騰したらサラスパを入れて茹でて、出来上がり」
左近も作っている。
「俺はきのこリゾット。山メシは炭水化物が大事だからな。あとしゃぶしゃぶ肉を茹でてそのゆで汁で豆スープ」
「すごいボリュームね。でも入っちゃうのよね。いただきまーす」
右手の山に日が沈んでいく。気温が下がってきて、ふたりは洞窟の中に入った。ランプの明かりを小さめにして明日の行程の確認をする。
「あそこのバスは高山と、反対方向では白川郷に行く。さっき両方のバスの時間をメモしてきたが、温泉に入っていかないか」
「そうね。帰りの電車を考えると、白川郷で温泉に入ってちょっと散策して高山に行って電車に乗った方がいいわね」
「よし」
左近はスマホを色々かざしていたが外に出て数分、戻ってきた。
「中は電波が入らないんだな」
ぶつぶつ言っていた。そのままテントから寝袋を出してきてマットを敷き、上に敷いている。綾女はドキドキして左近の動きを目で追っていた。
「?寝るんだろ?寝袋敷けば?」
「あ、うん…」
寝袋を敷くと二人分ぴったりの幅だった。
「つなげていいか…?」
「え?」
「綾女を抱きしめて寝たい。だめか?」
「え、そそそんなっ」
左近はファスナーをつなげ、二人分寝られるスペースを作った。
「綾女、おいで」
左近の言葉に吸い寄せられるように、綾女は左近の腕の中に体を滑り込ませた。途端にキスの雨が降ってくる。
「好きだ、綾女。好きでたまらない」
左近の唇が綾女の首筋を這い、胸元を広げて鎖骨に濃い色を残す。ぎゅっと抱きしめる。
「綾女…」
身体を固くしている綾女。だが次の行動がなかなかない。
「左近?」
見上げると、幸せそうな顔で眠っている。いくら経験がなくても綾女は取り残されたことを察した。
「んもう…左近たら…」
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