「炎情」は、妖刀伝二次小説サイトです。 綾女と左近の、本編でのあの別れに納得できなくて、色々な妄想を膨らませ、ちりばめています。

  1. 現代版
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思いの整理

長い間お互いに唇を味わっていたが、やがてどちらからともなく離す。
綾女の甘い甘い吐息。もう一度左近が重ねようとすると、観光客の声がしてきた。
余韻を残しながら体を離す二人。
「ここ」
綾女が指差す。431年前に左近が死んだ場所。
「ああ、ここだったな。もしかして、今ここを掘れば俺の遺骨が出てくるかもな」
「やだ」
綾女が首を振る。涙を浮かべて左近を見る。
「左近は、自分が死んだあとのことを知らない。みんな死んでしまって、生き延びたのは私だけだったのよ」
綾女の横顔があの頃の綾女になった。凛々しく、悲壮な決意に固められた顔。
「左近が死んで、その時に私は自分の気持ちに気づいたの。あなたと別れたくないと。でももう遅かったのよ。もう、私はあなたへ伝えることができない。どんなに想ってもあなたの微笑みが返ることはない。その気持ちが、わかる?」
「わかるさ…」
少し間をおいて、静かに左近が返事をした。
「俺は死んでからも、お前を見つめていた。俺を思って泣くお前をどんなに抱きしめたかったか。できることは、せいぜい夢で語りかけることだけだった」
「左近」
「俺は見ていたよ。間もなくお前は肺を病んで、ここで、死んだ。俺の上に倒れて、やっとともに逝けると死んでいった」
「私だけの記憶なのに?」
「見ていたと言っただろう。誰に聞いたのでもなく、俺が風になってもお前を見ていたということだ」
綾女は地面を見下ろした。涙が数粒、地面に落ちた。
「おい…」
「ありがとう。ずっと私を見ていてくれてありがとう。教えてくれてありがとう」
「ありがとうばかり言っているぞ」
「だって」
涙をぬぐいながら綾女が左近を見上げる。
「本当にありがとうしか言えない。嬉しいのか、悲しいのか、もう、わかんない」
泣き笑いの顔になる。左近はそっと抱きしめて、ゆっくり背中をなでていた。
そろそろ閉山の時間だ。
ふたりは手を取り合って下山した。
「綾女はこの近くに住んでいるのか」
「うん、郵便局の近くよ。ここから自転車で10分くらい。左近は?」
「東京にいたけれど、旅に出ている方が長いな」
「旅?」
「綾女を捜す旅。でももう決めた。綾女と一緒に住む」
「いいわよ」
あっけない快諾に左近は驚いた。真っ赤になってしどろもどろになる姿が想像できたからだ。
「うちね、2LDKあるの。だから寝る部屋はあるのよ。大丈夫」
「間取りの問題じゃなくて、俺が言っていることわかるのか」
「え?何だろう。あ、食費?家賃?それは折半で」
「だから~」
左近は綾女の耳元で甘い声を出す。
「一つ屋根の下で男と女が暮らすこと、つまり一緒に寝るってことだよ」
「……!///////」
綾女は真っ赤になった。押していた自転車に飛び乗り、こいで行ってしまう。
「おい、おーい、置いていくなー」
そこは疾風の左近。難なく綾女のアパートを探し当てた。
ドアホンで綾女が顔を出す。
「わぁ!」
「わぁ!じゃないだろ、まったく」
もし車に乗っていたら助手席から蹴落とされていたかもしれない、と左近は思った。
「ちょっと待ってて、掃除しちゃうから」
「いいよいいよ、客じゃないし。これから俺の部屋になるんだし」
「ダメ、はいらないで」
洗濯物を抱えて綾女が部屋から出てくる。2往復して掃除機をかけ、やっと左近を部屋に入れた。折り畳み式のベッドが一つ、あとはクローゼット。
「ここが左近の部屋よ。私の部屋には絶対入らないでね」
「寝るのはどっちの部屋だ」
「自分の部屋で寝てね」
つれない綾女。照れがありありと表れていた。

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