綾女はシャワーを浴びていた。
クリスマスの時の甘美な痺れが蘇ってくるようだった。
お湯の滴が体を伝う。
「大丈夫よ、きっと」
怖さを振りきるように呟いた。
シャワーから出るとリビングから明かりが漏れていた。
左近が資料らしきものを読んでいた。綾女はそっと左近の後ろに近づき、覗き込んだ。安土城の発掘調査の中間報告書だった。
「出たか」
後ろも振り向かずに左近が言った。
「面白いことが書いてある」
綾女は左近の隣に腰掛け、その資料を手にした。
「男女の遺骨?男性は年の頃20代。当時の人にしては背が高く180cmあった。錆びてはいるが鎖帷子を身にまとい、手甲を嵌めている。鎖帷子の左脇腹付近に大きく穴が開いており、何かで刺され、それが死につながったものと考えられる。女性も20代から30代、身長160cm。男性が埋められていたと思われる地層の上に覆いかぶさるような格好で亡くなっている。おそらく恋人か家族か。男性が埋葬されたあとに、後年、ここを死に場所としたのだろうか」
綾女は左近を見た。
「発見日を見てみろ。俺たちが前世の俺たちに会った翌日だ」
左近が1枚の紙を出す。複顔をCGで立体的にしたもの。
「私たちだわ」
「そうなんだ。魂もそうだが、体もやっと一緒になれたんだ。もう思い残していることはなくなったんだ」
「うん、本当によかった」
綾女は涙声になっていた。
はっきりと思い出した。自分の死に様を。
左近の死後10年。妖魔の血を浴び続けた体は異変をきたしていた。体が悲鳴を上げるが綾女は妖魔を狩り続け、やっと安土に戻ってくる。綾女はもう1年も血を吐き続けており、自分の命が長くないことを悟っていた。常人ならばすでに死の床についている病状であったが、熱で朦朧とする頭を振りつつ、やっとの思いで左近を埋葬した場所にたどり着いた。夕闇が濃く迫ってくる時分だった。
もう、一息ごとに命が削られていく。それでも綾女は左近の上に横たわり、優しげな顔をする。
「終わったぞ、左近。私の役目は終わった。これでおぬしに会うことが出来るな」
ここ何年も出なかった涙が目尻を濡らす。綾女は大きく息をし、そのまま二度と瞳は開かれることはなかった。
綾女はその記憶を左近に話した。
左近は黙って綾女を見つめていた。
「そうか、綾女はそんな最期だったのか。やっと会えたんだな」
「私、左近に出会うまで何も知らなかった。会わなければ綾女の想いはまだ費えることが出来なかったのね。左近に会えてよかった」
綾女はそっと左近に口付ける。今までにない行為に少し驚いたが、黙って綾女を抱き上げた。そのままベッドルームへ消えた。
- 現代版
- 31 view
この記事へのコメントはありません。