座の途中で左近は居住まいを正し、父に綾女と結婚させてほしいことを言った。
「綾女さんはまだ学生ですから、卒業するまで待っています」
「あと3年かかるが、待っているのかね」
「はい。自分も今仕事を始めたばかりで出張もあります。3年のうちには落ち着くと思います」
「綾女はそれでいいのか?」
「はい」
「そうか。綾女をよろしく頼みますよ」
「ありがとうございます」
左近は一息ついた。
「実は今、私と綾女さんは一緒に住んでいます」
「一緒に?」
父の眉尻がわずかに上がった。
「綾女さんが上京してしばらくは別に住んでいたんですが、同じアパートに不審な人物が出入りするようになって」
「私から左近に泊まらせてって言ったのよ。実際にあの人たちは私に危害を加えようとしたし、誰に相談していいかわからなくて、左近しか頼れる人がいなかったの」
「・・今はその心配はないんだね?」
「はい」
「・・・」
父は大きく息をついた。
「わかったよ。綾女を左近君に委ねたよ」
「はい」
その場の重い雰囲気を母が破った。
「左近さん、今晩は泊まっていかれるのよね。こちらへどうぞ。綾女、案内して差し上げて」
「はい。左近、こっちよ」
進之助も部屋へ引き上げた。
三人が去ると、母が父に言った。
「あなた」
「ふと自分の若い頃が重なった。左近君の気持ちがわかったんだよ。綾女がいいなら、もう何も言うまい。あれは、自分の意志で自分の道を切り開いていける子だ。私からみてもいい娘に育ったと思っている。母さんのおかげだな」
「うちの子はみんないい子ですよ。だから進之助にもあのような素敵な雪乃ちゃんが来たんじゃありませんか。桔梗もいい子に育ちますよ」
「そうだな」
父は残っていた酒を飲み干した。
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