綾女の部屋に家具が入り、綾女の新しい生活が始まった。
今まで一人暮らしをしていたこともあり、不自由はなかった。
左近とは距離が縮まったが、近いと却って会わないことも多かった。
「左近」
新婚ほやほやの龍馬が声をかけてきた。
「最近、綾女とは会っているのか?」
「いや・・」
「同じ構内にいるんだろう?」
左近も不思議だった。
こんなに近くにいるのに、龍馬の結婚式以来、メールも電話もしていない。
アパートも隣の敷地なのに、会いにも行っていない。
左近は綾女の部屋まで行った。
「綾女」
少し開いた窓から気配がした。
「綾女」
左近が再度呼ぶと姿を現した。
「どうしたの?左近?」
10日ぶりに再会した二人。しばし見つめあう。
「綾女に会いたくて、来た」
左近はやっとそれだけ言った。綾女はにっこり笑う。そして窓を閉めた。しばらく待ったが、綾女はそのまま出てこなかった。
「左近」
すぐそばまで綾女が歩いてきた。大き目のバッグを持っている。
「左近、ごめんね。何だか慣れなくて」
「いや、いいけど。それよりそのバッグは?」
「うん・・。左近に相談したいんだけど」
左近は、綾女の話を聞いた。
隣の住人が夜うるさいこと、怪しい人が出入りしていること。
「大家さんにも相談したんだけど、らちがあかないの。怖いから顔を合わせないようにしているけど、おととい出会い頭にぶつかりそうになってね、その人の視線がすごくいやらしくて気持ちが悪かったの」
綾女は自分の肩を抱いた。
「もう怖くて怖くて。引越ししようと思って探しているけれど、なかなかいい条件がないのよ・・・」
左近は後悔にさいなまれた。環境が変わったばかりで落ち着かない綾女を、ひとりにしてしまっていた自分。
「出ようにも出られなくて。今日左近が来てくれてよかった」
- 現代版
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