「お父さん、お母さん、会ってもらいたい人がいるの」
綾女からその話が出たとき、父はさびしく感じた。母も、少なからず同じ心境だった。
「ただいま」
綾女の声がし、引き戸が開けられる。
「お邪魔します」
男性の低い声。一家は玄関に出迎えに行った。
綾女の後ろに背の高い男性が立っている。スーツを着こなした姿はモデルのようだった。
「はじめまして。日向左近といいます」
ゆっくりお辞儀をする姿にも一同は見とれていた。
「さ、どうぞ、上がってください」
母が促した。左近はにこやかに応じながらも目ざとく観察していた。ふと進之助と目が合い、会釈する。双方、
俺よりいい男だ・・
と思っていた。
上座に父が座った。
「まぁ、座ってください。母さん、何をしている、こちらに来なさい」
「もうお父さんはせっかちなんですから、ねぇ」
母もにこやかに座った。
「日向左近君でしたね。うちのものを紹介しましょう。母、長男の進之助、嫁の雪乃、孫の桔梗、それに綾女」
「はじめまして」
「まぁまぁ、堅苦しい挨拶は抜きにして、お酒でも」
すっと母が立ち、綾女が後に続いた。雪乃は桔梗がぐずりだしたので座を外した。
「左近君は、もしかすると安土の発掘をしているのかね」
「はい、そうですが」
「ああ、道理で。いくつか論文も発表しているね」
そこへお膳を運んできた綾女が来た。
「あら、お父さん知っているの?」
「私も趣味で信長の足跡を追っているんだが、左近君は結構有名だよ」
「そうなんだー」
進之助が口を挟む。
「何だ、綾女は知らないのか?同じ大学だろう」
「今度読んでみるわ」
お酒と食事が進むうちに場は和んでいった。
- 現代版
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