「炎情」は、妖刀伝二次小説サイトです。 綾女と左近の、本編でのあの別れに納得できなくて、色々な妄想を膨らませ、ちりばめています。

  1. テーマ
  2. 45 view

邂逅

鳳来洞。
安土の戦いが終わり、綾女はそこを訪れた。
山桜があちこちで花開いている、春。
ここで自分に、生き方を助言した男はすでにいない。
そっと唇を押さえる。
今もまだ、あの時の温もりを思い出すことができるのに。
綾女は入り口に腰を下ろし、風景を見た。
「明るいな」
美しい山々。春の霞ではっきりと稜線は見えないが、暖かい陽射しが降り注いでいた。
こんなにも美しい景色を、左近と見たかった。
桜の花びらがどこからか風に乗って落ちる。
どれくらいの時間が経ったのか、気づけばそろそろ日が暮れる時刻になっていた。
今宵はここで左近の思い出と過ごそう。
夜になるとさすがに冷えるため、綾女は火を熾していた。
入り口から冷気と湿気が流れ込んでくる。
「雨か」
桜が見頃を迎えると決まって雨が降る。小さい頃からその雨を恨んだものだった。せっかく花が咲いても雨で散ってしまう。残念でならなかった。
火に小枝を差し込む。
人の気配がした。
綾女は入り口に鋭い視線を投げかけた。
「誰かいるのか」
聞き覚えのある声。綾女は立ち上がった。
ゆらり、と背の高い男が入ってきて足を止めた。
火に姿が照らされ、お互いを見る。
「まさか、そんなはずはない。狐狸か妖魔の類ではあるまいか」
綾女は腰の小太刀に手をやる。しかし小太刀に変化はなかった。
男が綾女に駆け寄り、強く抱きしめる。
「綾女」
「左近」
同時に呼び合い、お互いの腕に力をこめる。暖かい。
「生きていたんだな、左近」
「ああ・・一時は死の淵をさまよったが、お前に会いたくてな」
左近の両手が綾女の頬を包む。愛おしそうに見つめる。
「身なりは変わらないが・・きれいになったな」
綾女は恥ずかしそうに顔をそっと背けた。その顔を左近は自分に向けさせ、唇を重ねる。
ああ、この唇の温もり。私が望んでいたもの・・・。
唇を離して左近がからかう。
「今度は叩かないんだな」
綾女はくすっと笑った。左近も初めて見る綾女の笑顔。
「やっと笑った」
「え?」
「お前はいつも何かを見据えて厳しい顔をしていたからな。そういう顔もできるんだな」
「できるさ。左近がそうさせてくれたから」
自然と左近に擦り寄る。左近も優しく抱きしめる。
「覚えているか。いまわの際に左近が言ったこと」
「男と女として・・か。異存はないな?」
「ない・・」
ふたりの影がやがてひとつになる。
春の雨も、まんざら悪くない・・
左近の腕の中で綾女はそう思った。

テーマの最近記事

  1. 織姫15

  2. 織姫14

  3. 織姫13

  4. 織姫12

  5. 織姫11

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


カテゴリー
アーカイブ