川面の照り返しが強いあの日、まだ少女だった私が左近に対して思ったこと。
キザで嫌味な奴。
決して好印象ではなかった。
ただ、技量が私よりも優れていることに不快感を持ち、認めざるを得ない悔しさも知った。
それだけ。
影忍であること、妖刀を使うことで共通点があり、そこから付き合いが始まったのだったな。
口数が少なく、人を射るような視線の強さに、私はよく閉口したものだ。
何もかも見透かされている気がして、正直なところ畏怖があったことも否めない。
いつからか、左近の瞳に強さだけでなく人情味が混じるようになった気がする。
雪の蓬莱洞で、私は気づいてしまう。
自分が必死で見て見ぬ振りをし、捨てようとしたものを、左近はたやすく呼び起こしてしまった。
あの突然の口付けは、私の意識ではなく、体の中で直接の起爆剤となった。
驚きで思わず叩いてしまったが、そのあと私を見つめた左近に、感情の揺れが見られた・・・。
けれど、私はそれをあえて無視したのだ。
その出来事は安土で再会するまで私の心の中でくすぶり続けた。
安土で再会した左近は、私を守ろうと身を捧げた。それは同志を越えた感情が生み出している行動だった。犠牲愛。そう呼べるもの。
でも左近、それは左近の自己満足でしかないのだ。残される私には、ただ辛いだけ。
流れ出る血も枯れ果て、地に横たわり、一息ごとに命が消えていく。
その姿を私がどんな思いで見つめていたか、左近にはわかるだろうか。
愛するものを守れた。それだけで死んでいくのは、愚かな行為だと思わないのか。
本当に愛するものを守りたいのなら、生きて、その思いをつなげて欲しい。
左近・・。
私は何度目かの同じ夢から、涙とともに目覚めた。
枕が少し濡れている。
その枕の主は、規則正しく寝息を立てている。
「どうした・・?」
甘く優しい声。胸が痛くなるほど切なくて、私は少し嗚咽を漏らしてしまった。
彼の長い指がそっと私の涙をぬぐう。
あの日、私の思いが通じたのか、左近は黄泉の国の入り口から戻ってきてくれた。私はもう自分の思いに迷いがなかった。
左近と一緒にいたかった。
そして昨日、私たちは祝言をあげ、初めて結ばれたのだ。
「綾女」
左近が呼ぶ。私は涙を嬉し涙に変え、左近の胸にそっと顔をうずめた。
- テーマ
- 96 view
この記事へのコメントはありません。