「左近・・・」
綾女の腕の中で左近は次第に冷たくなっていく。
はずだった。
何の因果か左近は奇跡的に命を取り留めていた。
それはきっと、綾女に対する想いが強かったからかもしれない。
そして綾女も、左近が生きていてくれたことに感謝し、左近のそばから離れなかった。
左近に目覚めの時が訪れようとしていた。
いつものように目覚めた綾女は、左近の顔を覗き込んだ。顔色を確かめることも今では習慣になっていた。
「あ・・」
いつも以上に血色もよく、頬に赤みが差している。睫がかすかに震え、そして左近は目をゆっくりと開ける。
「左近・・」
左近の瞳に映ったのは、最後に見たときと同じ綾女の泣き顔だった。でも今見ている綾女は嬉し泣きのような顔になっている。
「あ・・やめ・・」
久しぶりに出す声は掠れている。身体もなかなか自分の意思で動くことままならず、起き上がろうとした左近を綾女が支えた。
お互いのぬくもりを感じあう。支えていたはずの綾女は左近に抱きついていた。
「どうした・・綾女」
いくらか滑らかになった声で左近が問う。
「今だけ・・済まない、左近」
驚くほど素直な気持ちに、綾女自身も戸惑っていた。
嬉しいという一言だけではない気持ち。左近を失いたくない。左近とともにありたい。
「横になってもよいか?」
「あ、ああ」
綾女は左近をゆっくり横にした。その間ふたりは見つめ合っている。
左近の手がゆっくりと綾女の背中に回った。きゅ、と引き寄せられ、綾女も横になって左近と向き合う。
「お主が、ずっとそばについていてくれたのだな。心配をかけた」
「ううん・・左近のそばにいたかったから・・」
「俺は、また綾女に会えてよかった・・。そう思っている。生きているということのありがたみがわかる」
「私も・・左近に会えて嬉しい・・」
綾女は左近に身を摺り寄せた。素直な気持ちで左近に向き合える自分が嬉しかった。
このままずっとともに生きていきたい。
お互いのその思いに呼応するように、朝日が差し込んできた。
- テーマ
- 57 view
この記事へのコメントはありません。