あと少しでその年も暮れようとしていた。
久しぶりに静かな夜。綾女は忍び装束を解き、普段着になっていた。ふと外を見ると静かに雪が降り始めていた。
「雪か・・」
部屋を出、廊下で空を見上げる。差し出した手のひらに雪が落ち、溶けていく。そっとその手を握りしめる。それに重なる大きな手。
綾女は驚いて、いつのまにかそばに立っていた男を見上げた。
「相変わらず鈍いな」
「左近。お主はいつも気配を消すな。その悪い癖、治らぬのか」
「お前こそ、俺の気配をいい加減察することができぬのか」
ああ言えばこう言う。
埒があかない、と綾女は口の中で呟いた。そして重ねられた手をほどこうとした。左近の手がゆっくり離れていく。
「あ・・」
ふと寂しさがこみ上げ、綾女は声を出してしまった。
「なんだ」
綾女はなんでもないというように首を振った。いったん離れた左近の手は、綾女の肩に置かれた。
「抱きしめていいか」
綾女は固まったまま、かすかに頷いた。突然のことで反撃する考えはなかった。
トクン、トクン・・
左近の鼓動が少し早目に聞こえてくる。綾女はその華奢な体をすべて左近に預けていた。愛おしそうに左近が頬を押し付ける。
あたたかい・・
綾女は安心できる温もりに触れた気がして、目を閉じた。
今だけ・・もう少しこのままで・・いさせて欲しい。
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