暑かった空気も次第に冷え、澄んでくる頃。
障子を開け放つと、月の光が部屋の奥まで入ってきた。
「明かりはいらないな」
左近は奥の気配に向かって声を投げかけた。
返事はない。
だが静かに気配は左近に近づいた。
左近は振り向きざまにその気配を抱きしめる。
「もう!」
どんなに愛しても愛し足りないほどの女性がふてくされる。
「気配じゃないんだよ、綾女の香りでわかる」
「香り?」
「そう。髪の香り…肌の香り…」
言いながら左近は髪に触れ、肌を指でなぞった。
くすぐったそうに綾女が笑う。その笑いは、最近になってやっと見るようになってきた。
襟元まで指を滑らせ、左近は綾女を見つめた。
ふたりの視線が絡まる。お互いの鼓動が聞こえるような距離まで顔が近付き、まつ毛が触れ合う。
何度目かの…口づけ。
でも今宵は、月の光を浴びて幾度となくふたりは体を入れ替えた。
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