「炎情」は、妖刀伝二次小説サイトです。 綾女と左近の、本編でのあの別れに納得できなくて、色々な妄想を膨らませ、ちりばめています。

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ともし火

「本当の名はなんと言うのだ」
「・・綾女。香澄の綾女」
伊賀で左近が綾女の名を聞いた。帰ってきた答えに左近の記憶が蘇る。
あれは・・もう10年ほども前になる。
香澄の里へ使いに出たことがある。用を済ませ、帰ろうとした左近は里の外れで美しいものを目にした。
年のころ7歳くらいか。ひとりで手裏剣の鍛錬をしている。黒い大きな瞳は目標をきっと見据えている。意志の強さも感じられる。命中率はあまり多くはなかったが、ひとつひとつ投げては考え、見ているうちにだんだんと当たるようになって来た。
「誰?」
その少女が左近に気づき、訝しげに見ている。
「俺は、日向の里の左近。用があってこちらに来た」
「そう、日向の人」
少女は汗をぬぐい息をついた。そして結っていた髪をほどいた。肩までの長さの黒髪から、やさしい香りがした。
「君は?」
「私?私は綾女。香澄の綾女」
綾女という少女は髪を簡単にすくと手早くひとつに結いなおした。鍛錬の続きをしようと手裏剣を手に取るが、左近が気になった。
「行かないの?」
「え?あ、ああ・・」
「明るいうちにこの山を抜けたほうがいいわよ」
いかにも鍛錬の邪魔だと言わんばかりにそっけなく綾女が言った。それ以上左近はその場にとどまる理由もなく、去った。左近の心に灯った小さなともし火。いつしか記憶にうずもれていったが、再び綾女の口から名を聞いたことで鮮やかな出来事として蘇った。
あの時と同じ瞳、髪のかおり。
少年の左近の心についたともし火。そのともし火は今、恋という炎に変化していた。
「そうか、綾女というのか」
綾女の頬に左近の手が触れた。綾女はまっすぐに左近を見つめている。左近の手が綾女の顎にかかり、くいっと上を向かされた。
「あ」
綾女が抗う間もなく、左近の唇が綾女の言葉を閉じ込めた。綾女の腕が左近の胸を押し返そうとする。その腕を左近はたやすくつかみ取り、さらに深く唇を合わせる。
「左近・・苦し・・」
途切れ途切れに綾女が悲鳴を上げる。その声にやっと左近が開放すると、綾女の平手が空を切った。左近は軽くかわす。
「馬鹿者!」
涙ぐんだ瞳で綾女は言い捨て、自室へ入ってしまった。綾女の心にもさざなみが立ちはじめていた。
これからふたりの恋がはじまる。左近はそう思った。

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