夏の昼。
何も遮る物のない、広い草原を左近と綾女が歩いている。
眩しいほどに明るかった景色が、少し薄暗くなる。風も出てきた。
「何だ?」
綾女が立ち止まり、視線を周囲にこらす。
「あれだ。上を見てみろ」
左近の声に綾女が視線を上げると、日が欠け始めていた。
「日食だ」
「日食・・?日が欠けるなぞ、不吉な・・」
去年、月が欠ける晩に左近は瀕死の重傷を負ったばかりだ。それ以来綾女は自然現象に敏感になっている。
風が強く吹き、綾女はその身を左近に寄せる。
「怖いか?」
「いや、平気だ」
そう答えるが、綾女の顔は不安でいっぱいだ。左近は優しく抱きしめる。
あたりがどんどん暗くなり、気温も下がってきた。地平線は夕焼けのような色に染まっている。
綾女はいっそう左近に身をすり寄せた。そんな綾女が愛おしく、左近はしっとりとした髪を撫でた。
「見ろ、綾女。日がすっかり隠れた」
怯えたように見上げる綾女の目には、不思議としか言いようのない光景が映った。しばらくすると淵から光が漏れ、光が蘇ったかのように眩しくなる。
「死と再生の儀式のようだな」
左近が言った言葉が、今でも耳の奥に蘇る。
「覚えている?」
綾女はその男に問いかけた。
昔と変わらないふたり。今では日食の知識はある。それゆえにわざわざ船に乗って硫黄島近海まで来ているのだ。
「ああ、覚えているさ」
言いながら、左近は綾女に軽くキスをする。
「やだ、みんないるじゃない」
恥ずかしげに頬を染める綾女は、いつ見ても初々しく可愛らしい。
「そろそろ皆既に入りまーす」
船のアナウンスが聞こえ、日食グラスを持って綾女は太陽を見上げた。
左近はビデオを撮っている。
「おい、手を貸せ」
左近は綾女の返事を待たずに、左手を太陽のほうに向かせた。
「何?」
左近の指に小さな光るものが握られている。
太陽の淵から明るい光が溢れ出るとともに、左近は手に持っていたものを綾女の薬指にはめた。
「ダイヤモンドリング、さ」
太陽の光と指輪のきらめきが見事に重なり、綾女は驚きと嬉しさで何も言えなくなっていた。
「昔言っただろ、再生の象徴だって。俺たちはこれから、もうずっと離れない」
「左近・・」
ふたりは熱いキスを何度も交わしていた。
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こんにちわ、おりぼんです。
日食、すごかったですよね(中継が)
このお話しを読むと、某国営TVを見てらしたのかな?と思いました。
私も職場で見つつ、実際に部分日食を肉眼で見ました・・・午前中は、仕事になりませんでした(汗
しかし、あのダイヤモンドリングは欲しかったですぅ。
でも、左近からだったら、リングなくても許せるけど(笑
こんにちは。
「えぬえちけー」を見ておりました。
我が家方面では、雲に阻まれてあまり見えませんでしたが、それでも少し暗くなった気がしましたね。
綾女、いいものをもらいましたよね。
でもリングがなくても、左近の気持ちは変わりませんから~♪