女でなければと、よく言われたものだ。
香澄の里には、姫がふたりいた。
ひとつの魂をふたつに分かち合った双子の姫。
同じ姿で、同じ声で、同じようにくるくるとよく動きまわる。妹はよく泣いた。
「はー、まったく、また綾女は泣いているのか」
兄の進之助がため息をつく。
「私のせいではないわ」
姉の皐月が知らんぷりをする。
だが、いつまでもそんな平和な生活は続かなかった。
皐月の縁談が決まった。
たおやかで美しく成長した皐月は、まさに匂い立つ花のごとし。
嫁ぎ先は日向の左近のもと。
当の皐月はふさぎこんでいた。
「姉上、どうされました」
綾女が心配して部屋を訪れると、皐月は袖を涙で濡らしていた。
もともと少し弱いところがある皐月だが、そのように泣いている姿は初めてだった。
「綾女…あなたに日向に行ってもらいたいのです」
突然の話に、綾女は返事ができなかった。
「訳を、お聞かせください」
綾女は手足の先から血が引いていくような感覚を覚え、皐月にやっと声をかけた。
「私には好きな人がいて、すでに子を宿しているのです」
口元を袖で覆いながら、皐月は小さい声で真実を告げた。綾女はめまいを起こしかけた。
皐月に求婚してきた男性は数多く、日向の里へ輿入れが決まる前に皐月は体の変化に気付いたのだった。
「先ほど、兄上にも話しました」
進之助も綾女と同様、倒れそうな顔色だったという。
綾女は進之助に呼ばれた。
「このたびのことは皐月から聞いているだろう。縁談自体取り消すことはできない。日向に行ってはもらえないか」
綾女は頷くしかなかった。
- あの時代
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