「待たせてすまなかったね」
走ってきた割には静かな声で息も荒くなっていない。それに速かった。
「足、速いんですね」
「昔野山を走り回っていたからね」
「ふーん。どこ出身なんですか」
「加賀の国。わかる?」
「加賀友禅ですね。石川県?」
「当たり」
左近は綾女をゆっくりエスコートしていた。お勧めのお店に着く。
落ち着いた雰囲気のお店を綾女は気に入った。
「ここ、雑誌で紹介されていたレストランですね。パスタが美味しいの」
綾女はニコニコしていた。
「俺の番号、登録してくれた?」
「もちろん・・」
元気よく返事をして、綾女は顔を赤くした。おそらく嬉しさいっぱいの表情だっただろう。左近は微笑んだ。
「ありがとう。俺も君の番号を登録したよ」
「あ、ありがとうございます」
綾女は胸が高鳴った。憧れていた左近と急にお近づきになれて夢みたい・・。
「あの、どうして私を?」
左近はまじめな顔になった。綾女も慌てて姿勢を正した。
「なぜか、初めて会った気がしないんだ。とても懐かしくてそばにいると安心する。だから会いたいと思った」
左近の静かな声が綾女の心にしみこんでいった。
「綾女、と呼んでいいかな」
「はい・・」
綾女は嬉しさのあまり涙がこぼれそうになった。左近の長い指が優しく涙をぬぐう。
「やだ、私ったら・・」
照れくさそうに綾女が笑う。その笑顔も左近は眩しげに見つめていた。
「あの、私も左近、て、呼びたいな・・なんて」
「いいよ」
「いいの?嬉しい」
綾女は嬉しそうに微笑んだ。
やっぱり笑顔が一番似合うな・・。左近は愛おしそうに綾女を見つめていた。
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