朝食を終えて片付けても、まだ8時だった。
「左近、いいお知らせがあるの」
「何?」
「明日もお休みになったの。だからずっと一緒にいられるよ」
「そっか。俺もいいお知らせ」
「なになに?」
「来月から松本本社に異動になった」
「わぁ、嬉しい、近くでいられるね」
可愛い綾女。左近はキスをした。
「引っ越さなきゃならないんだけど、いい不動産屋知っているか?」
「ああ、ここの大家さんならとても良心的な人よ。ここのアパートはいっぱいだけど、ほら、道路向かいのコンビニの2階が一部屋空くって聞いたことがあるわ。大家さんもその3階に住んでいるから、今日行ってみない?」
10時ごろになるのを見計らって、綾女は左近を連れてコンビニの建物に行った。
「こんにちはー大家さん」
「おう、早いな綾女」
左近とそう年が変わらない青年が出てきた。
「あのね、この人来月から松本に引っ越すんだけど、いいお部屋ないかしら。ここの2階の部屋が空くって前に聞いたことがあるんだけど」
「あーごめん、今なぁ…うちの嫁が住んでいるんだ」
「え?お嫁さんなのに何で一緒に住まないの?」
「綾女、察しつくだろ」
左近が小声でたしなめる。
「あ、ごめんなさい」
綾女も気づいて謝った。
「いやいいんだ、そんな事情じゃないから。で、俺のアパートはみんな入っているんだよ。ごめん。あ、でも、この人、綾女の彼氏?」
綾女は真っ赤になった。
「綾女の部屋、リビングじゃない居室な、2部屋あるだろ。一緒に住んでもいいぞ。彼氏さん」
「日向です」
「日向さん、後でいいから契約書にサインして印鑑押して諸々証明書くっつけてここのポストに入れておいてよ。実質今日契約日でいいから」
「あ、はい。いいんですか?」
「家賃は今まで通りでいいよ。何かわかんないことがあったら電話して。もう俺、下行かなきゃいけないんだ。あとで綾女んとこのポストに書類を入れておくな」
「ありがとうございました」
ドアが閉まった。
「こんなんでいいのか?」
「私もはじめびっくりしたよ。義姉さん、あ、私お兄さんがいるのね。義理のお姉さんが知り合いで、こんな感じでいいって言われて、今のところトラブルもないし、いいんじゃない?」
「綾女は俺と一緒に住んでいいのか?」
「いいよ。あ、部屋に山の荷物置いちゃっているから片付けなきゃね」
ペットを飼うような気軽さで綾女も結構さばさばしていて、左近は本当にいいのか自問自答してしまった。
部屋に戻ると、玄関で抱き合う。
「契約上、今日から俺は同居人だ。よろしくな」
「こちらこそ」
濃いキスをする。やっと唇が離れると綾女の瞳は熱を帯びて潤んでいた。無意識だが綾女の体のサイン。
「その顔。人に見せちゃいけない」
「うん」
綾女は左近から離れると、紙と鉛筆をもってテーブルに向かい、何かを書きはじめた。
【同居の心得】
①なるべく一緒にご飯を食べる
②家事は分担
③お互いを思いやる
④できるときにできる人がやる
「あとはないかなぁ」
左近が書き足す。
⑤一緒にお風呂に入る
⑥夜は必ず同じベッドでともに過ごす
「これ絶対な」
「太字で下線まで…。うん、わかったよ。夜なのね。ふふっ」
「え、いや、たいがいは夜だろ、何なら昼夜でもいいぞ」
【同居の心得】
①なるべく一緒にご飯を食べる
②家事は分担
③お互いを思いやる
④できるときにできる人がやる
⑤一緒にお風呂に入る
⑥昼夜とも必ず同じベッドでともに過ごす
「も~う、書き直さなくてもいいじゃない」
「いや、額に入れて目立つところに置かないと、綾女が5と6をないがしろにしても困るからな」
「しないよ?」
左近が黙ってカーテンを閉める。綾女はベッドの上に押し倒された。
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