京都の夏は溶けるように暑い。
でも受験生には関係ない。
綾女は予備校に通ったり図書館に連日通い続け、猛勉強をしていた。
「左近、おはよう」ちゅっ
「左近、行ってくるね」ちゅっ
「左近、ただいま」ちゅっ
「左近、おやすみなさい」ちゅっ
桜の下で撮った左近。横顔、振り向いたところ、正面で照れているところ。サイドテーブルに並べて見つめるのが、ほっとした息抜きだった。
18の誕生日、左近からプレゼントが贈られてきた。なぜか北野天満宮のお守り。その後にかけた電話で、安土に来ていること、プレゼントは今一番ふさわしいと思ったものだったことを知った。
「頑張れよ。クリスマスを楽しみにしている」
左近の甘い声が囁きかける。
それから2ヶ月。
綾女は勉強で煮詰まった頭を少し解放しようと、ふらっと安土を訪れた。
去年はここで発掘をしていた。そして左近に会った。
「あれ、今日はお休みなのか」
現場に人影はなかった。
ちょっとだけ、左近に会えるかもという期待はなくなってしまった。
山を一回りする。そして例の場所。綾女はしゃがみこんだ。頭の中は空っぽにして、以前の二人が重なっていた地面を見つめる。綾女の体の気が入れ替わるような感触だった。澱みを洗い流す。
「また来ますね」
声をかけ、ゆっくりと立ち上がった。そのまま勢いよく両手を伸ばし、背伸びをした。
「よしっ、また頑張る!」
綾女の顔は少年のような爽快感に満ち溢れていた。
- 現代版
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