ふと時計を見ると7時だった。
甘い余韻に浸りつつ、二人は別々にお風呂に入った。
「左近、今回はいつまでいられるの?」
暖房をつけた部屋。コタツに入った綾女は聞いた。
「今度は実家に帰らないからなぁ。綾女がいいと言うまでいようか」
「何で帰らないの?学生も最後なんだから、感謝の意味で帰るんじゃない?」
「帰らないほうがいいこともあるんだ」
左近はわずかに瞳を曇らせた。
今年のお正月は、姉が結婚したばかりでお祝いのために帰った。左近の両親はすでにない。左近の家は姉が婿を取り、あとを継いでいる。親が強く勧めたからだ。婿はいい人だが、左近は好きになれなかった。
「じゃあ、お正月はひとりね。さびしくない?」
「慣れているからな」
ひとりで過ごす正月は何度も経験してきた。親が存命だった頃でさえ、めったに家には帰らなかった。高校進学を機に一人暮らしを始めた。幸い生活費は十分すぎるほどあった。姉だけをかわいがっていた両親が送金してくれたが、電話ひとつよこさなかった。世間体が保たれるのであれば、与えておけばいいだろうという考えのようだった。母は父に頭が上がらなかった。
左近は家中の誰にも似ていなかった。みんな純日本人のような顔をしているのに対し、目鼻立ちがはっきりし、髪も茶色く瞳は明るいところで見れば琥珀色だった。何百年に1回かの隔世遺伝だったが、父は母が不貞をはたらいたと疑っていた。左近が出来の悪い子であれば、まだましだったろう。しかし幼くても怜悧で論理的だった左近はますます父親から疎まれていた。
左近は努力を惜しまない子だった。成績は優秀で運動にも秀でていたが、それはすべて自分だけが頼れる存在だと思っての努力の結果でしかなかった。
愛に飢えていたのかもしれない。いつの頃からか誰かを探している感覚にとらわれていた。容貌にも恵まれた左近はそれなりの経験もした。けれど肉体は癒されても心が癒されることはなかった。
綾女に会った瞬間の嬉しさはたとえようもないものだった。やっと見つけた愛おしい存在。もうこの瞬間から手放したくなかった。
初めてした恋。愛し愛される喜び。綾女といると頑なな心がゆっくりほどけていくようだった。
- 現代版
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