左近の部屋に戻り、ソファにどっかりと座り足を組む蘭丸。
「俺、コーヒーでいいや」
「ずいぶん偉そうな客だな」
「そうか?」
左近は台所に立ち、コーヒーを淹れはじめた。
蘭丸はあちこちを見て回った。きれいに掃除も行き届いている。女性の気配は皆無だ。ベッドサイドに綾女が笑っている写真があった。夏の発掘現場で撮ったものだ。
「あんまり見るなよ。コーヒー入ったぞ」
蘭丸はリビングに戻った。
「綾女とは、うまくいっているのか」
「まあな」
左近は言葉を濁した。
「綾女が髪を切った」
左近の表情が変わったが、言葉は出なかった。
「今朝学校で会って俺も驚いた。これだ」
携帯で撮った写真を左近に見せた。
確かにショートカットで凛々しくなった気がする。首筋もすっきりとしている。左近は食い入るように綾女の写真を見ていた。
「ただの気分転換だと言っていたがな。何かあったのか?」
左近は携帯を蘭丸に戻した。
「時期尚早だったんだ」
左近はふっと息を吐いて蘭丸を見た。
「綾女が怯えた」
は?と蘭丸は首をかしげた。
「お前、初めてじゃないよな。かなり場数を踏んでいるだろう?」
確かに左近は高校に入った頃からかなりの経験をしてきている。だが綾女は違った。初めて恋をした女性だった。それも数百年の時を経て転生までしてやっと再会できた。
「話してみろよ」
左近はポツポツと話した。
「綾女に説明はしなかったのか」
「言えるわけがないだろう」
「そりゃそうだが・・・で、連絡は取ったのか」
「いや」
「何でだよ。綾女はきっと自分の態度が原因だったと思い込んでいるぞ」
蘭丸は携帯をいじりはじめた。
左近の携帯が鳴る。見るとさっきまで見ていた綾女の写真が添付されていた。
「会いたいだろ?」
「今の俺じゃだめだ」
「何を弱気になっている。あの時と同じ過ちを繰り返すつもりか」
左近ははっと気づいた。
そうだ、あの時。綾女に想いを打ち明けた時も時は遅すぎていた。死ぬ間際に見た綾女の泣き顔。あんな顔はもうさせたくないと、消えゆく意識の中で後悔した。
「そう・・だな。俺は成長しないな」
「それだけ綾女に本気だっていうことさ」
蘭丸は左近の携帯を奪った。リダイヤル歴の最初に綾女の番号が入っていた。きっと何度もかけようとして途中で切ってしまったんだろう。呼び出し音が数回鳴り、相手が出た。蘭丸はそれを左近の耳に押し付けた。
「もしもし」
優しい綾女の声。
「もしもし?」
少し訝しげになる。左近は声を出せずにいた。
「左近なのね?」
「あ、ああ・・・」
やっと返事をした左近を見て、蘭丸は走り書きを残して家路についた。
〜帰る。綾女と仲良くやれよ。春からよろしく〜
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