「もしもし」
久しぶりに聞く綾女の優しい声。俺は返事が出来なかった。
「もしもし?」
少し訝しげになる。
「左近なのね?」
「あ、ああ」
俺はきっとほっとした声を出していただろう。
「嬉しい、電話もらえて」
「うん」
「誰か・・いるの?」
歯切れの悪い返事に気遣うような声。
「蘭丸がいたんだ。今まで」
「え、今朝学校に来てたよ?あ、じゃああの後すぐに行ったんだ」
「春から俺の隣に住むことになって、下見に来ていた」
「お隣?ふふっ、面白そう」
「他人事だからそんなことが言えるんだ」
電話の向こうから綾女の笑い声が聞こえた。
「髪を切ったんだな」
「何で知っているの?」
「蘭丸が言っていた」
「そうなの。男みたいになったって佳代に言われてね」
「いや、きれいだよ」
綾女の動揺がわかった。
「蘭丸が携帯で撮った写真を見せてくれた」
綾女の耳元で囁くように、声を出す。
「きれいだ・・」
「ありがと・・」
「待ち受けになっている」
「恥ずかしいなぁ」
俺はふと居住まいを正した。
「この間はすまなかった」
「あ、私こそごめんなさい」
あー、照れる。でも言わなければ誤解したままだ。
「本当は綾女を抱きたかった」
言ってみると、ものすごいことだった。俺は綾女に対して何を言っているんだろう。でも勢いだ、言ってしまえ。
「でも綾女は、今穢してはいけないと思ったんだ。だから帰ってきた。あのままいたらきっと綾女を・・」
「それは、私が怖がっていたから?」
不意に綾女の声が遮った。
「…………」
図星で返事が出来ないでいると、綾女は言葉をつないだ。
「ありがとう、そこまで私のことを気遣ってくれたのね。でも私は左近となら、その・・大丈夫だと思う」
最後は声が小さくなった。俺は鼓動が一気に早くなった。次の言葉を聞くまでは。
「誰かに聞いておいたほうがいいのかな」
「それはだめだ」
冗談じゃない。綾女には俺がじっくり教える。
「でも」
「俺が教えるから」
嫉妬心が丸見えで、綾女はそれを察して笑った。
「左近に任せる」
「ああ」
「今度、いつ会えるかな」
「そうだなぁ・・・」
俺はカレンダーを見た。どうにも予定が中途半端でまとまった休みが取れない。
「私は週末ならそっちに行ってもいいよ。今週は無理だけど」
「わかった。予定を確認してまたメールする」
「うん、じゃあ」
「うん、綾女」
「なぁに?」
俺は携帯にキスをした。そして電話を切った。
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