翌日、綾女と左近は自宅に戻ってきた。
「私も左近の家に挨拶に行くわ」
「いや、いい」
左近は冷たい表情で言い捨てた。
「左近?」
「俺には親はいない。姉が家庭を持っているが、もう行き来もない。行く必要もない」
「でも、お姉さんは・・」
「もうこの話はおしまいだ」
左近は自分の部屋に入ってしまった。
その晩、左近は綾女に背を向けたまま寝ていた。
「綾女」
「ん?」
左近が綾女に向き直り、抱き寄せた。
「さっきは声を荒げてしまってすまなかったな」
「ううん」
綾女の黒髪が揺れる。
「また、家を空ける」
「そう・・・いつ?」
「2月。今度は長い」
「・・・・」
「半年、行ってくる」
「誕生日、過ぎちゃうね」
綾女の肩が震えていた。寂しくて泣き出したいのを懸命にこらえている。左近の手が優しく綾女の髪を撫でる。
「私も行かれたらいいのに。待つだけは辛いもの・・」
左近はたまらず、綾女を抱きしめた。辛いのは左近も同じだった。こんなにも愛おしい綾女を1日たりともこの腕から離したくない。
「夏には戻るから」
「うん、うん・・」
沈丁花が咲き始める頃、左近は家を離れていった。
- 現代版
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